副腎疾患 adrenal_gland
副腎疾患とは
主な副腎疾患
原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症(PA)とは
主に片側性の腫瘍からアルドステロンが過剰にでているアルドステロン産生副腎腺腫や左右両方の副腎からアルドステロンが多くでている特発性アルドステロン症があります。アルドステロンの作用により体内にナトリウムが蓄積され、その影響で高血圧がみられるようになります。
高血圧患者における PA の有病率はプライマリケア施設で 3-12%、専門施設では 5-29%と報告されています。原発性アルドステロン症は心房細動、冠動脈疾患、心不全、蛋白尿などの脳・心血管、腎合併症を発症するリクスが高いので、早く診断し治療を開始することが大事です。当院長は慶応大学病院内分泌内科の外来を担当しており、原発性アルドステロン症をはじめとした難治性高血圧・2次性高血圧については当院でも専門的に診療しておりますのでご相談ください。
主な症状ですが、難治抵抗性の高血圧のほか、アルドステロンの作用で尿中のカリウムの排出が多くなり低カリウム血症にもなりやすく、筋力低下、脱力発作、多尿、夜間尿などの症状がみられます。
原発性アルドステロン症の診断
スクリーニング、機能確認試験、局在診断があります。
スクリーニング(外来)
①PAC(CLEIA) *1 /PRA 比(ARR) ≧200 かつ PAC(CLEIA) ≧60 pg/mLを陽性
但し、ARR 100~200 を「ARR 境界域」とし、PAC(CLEIA) ≧60 pg/mL を満たせば 暫定的に陽性とする
② PAC(CLEIA)/ARC 比(ARR) ≧40 かつ PAC(CLEIA) ≧60 pg/mLを陽性
但し、ARR 20~40 を「ARR 境界域」とし、PAC(CLEIA) ≧60 pg/mL を満たせば 暫定的に陽性とする
外来ではCTをとり副腎に結節や腫大が無いかを確認します。腫瘍の大きさが5mm未満ではCTで検出できないことがあります。CTで副腎腫瘍が確認できなくてもPAの場合は小さなアルドステロン産生腺腫や遺伝子変異などを伴い大きくなったアルドステロン産生細胞クラスター(APCC)がアルドステロンの過剰産生をしている可能性もあります。
機能確認試験 1種類の陽性を確認(典型例では省略も検討)
①カプトプリル負荷試験
②生理食塩水負荷試験
③経口食塩負荷試験(24時間畜尿)
④フロセミド立位負荷試験
を行います。
局在・病型診断(入院)⼿術希望・可能例で実施
副腎静脈サンプリング検査で、腫瘍があるところから実際アルドステロンの過剰分泌があるかを確認します。PAと診断されて腫瘍があってもアルドステロンを産生していない腫瘍が合併している場合もあります。またCT上に腫瘍がなくても、左右の副腎のうち過剰分泌が片側性か、両側性かを判定します。
慶應義塾大学病院の放射線科では、副腎静脈のさらに細い血管からも何カ所か採血を行う、非常に高度な技術を要する超選択的副腎静脈サンプリングを実施しています。
また副腎腺腫がコルチゾールを自律的に分泌していることがあり、原発性アルドステロン症に副腎性サブクリニカルクッシング症候群を合併していることもあります。これはデキサメサゾン抑制試験で判定します。
(典型的な PA の臨床所見(低カリウム血症、副腎腫瘍、PAC 高値など)を呈する 35 歳未満の例では片側性の可能性が高く、十分なインフォームドコンセントの上で、AVS を省略し、片側副腎摘出術を考慮することが可能です)
原発性アルドステロン症の治療
手術治療
手術を希望され、片側性にアルドステロンが過剰にでている場合は、病態の治癒、過剰アルドステロン分泌と高血圧の正常化、臓器障害の改善と進展防止が期待できるため、腹腔鏡下副腎摘出術を泌尿器科で行います。アルドステロン産生腺腫ができた場所によっては腫瘍部のみを切除する副腎部分切除術が行われる場合と患側副腎摘出術が行われる場合があります。
薬物治療
副腎静脈サンプリングの結果で両側性のアルドステロン過剰分泌がみられた方や、片側性でも手術を希望しない、手術ができない方などはアルドステロンの作用をブロックするMR拮抗薬による治療を開始します。
またCT で副腎腫瘍を認めない血清カリウム濃度正常症例においては両側性の頻度が高いため、他の臨床像(性別、年齢、BMI、PAC、ARR、機能確認検査結果など)も参考に、十分なインフォームドコンセントの上で、局在診断を回避し、薬物治療を選択することも可能です。
ラジオ波焼灼術
2021年に保険収載されました。背中から2本の電極を刺し、副腎腫瘍を挟んでラジオ波を流すことで焼灼しますが、現在は限られた施設で行われています。慶応義塾大学病院では2023年より放射線診断科で行っています。アルドステロン産生腺腫でもその適応が限られ、内分泌内科・放射線診断科・泌尿器科と合同で適応を検討します。
クッシング症候群
クッシング症候群は副腎皮質刺激ホルモンであるACTH依存性(下垂体腺腫であるクッシング病や異所性ACTH症候群)とACTH非依存性(副腎性)に大別されます。
副腎性クッシング症候群とは
副腎皮質に腺腫、癌、過形成ができることにより、糖質コルチコイドであるコルチゾールの過剰産生がおこり、満月様顔貌、中心性肥満など特徴的な症状を示す病気を副腎性クッシング症候群といいます。コルチゾールは,全身にあるグルココルチコイド受容体を介して作用するため、クッシング症候群は,全身にその影響が表れます。
その特異的症候として満月様顔貌、中心性肥満または水牛様脂肪沈着、赤紫色伸展性皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下出血斑、打撲痕、四肢近位筋力低下、一般的な症状では高血圧、月経異常、にきび、浮腫、耐糖能異常、骨粗鬆症、精神異常が認められます。副腎男性ホルモンを同時産生している場合は多毛、髭などもみられます。
これらの症候はコルチゾール過剰による脂肪合成促進、急速な脂肪沈着による皮下組織断裂、皮膚の菲薄化・脆弱化、 蛋白合成抑制と異化亢進、脂肪合成及び糖新生の促進、コルチゾールのミネラロコルチコイド作用(腎でのNa(ナトリウム)再吸収,K(カ リウム)排泄亢進)、腸管からのカルシウム吸収低下、骨形成低下・吸収亢進により生じます。
一般検査所見では、末梢血においてリンパ球及び好酸球減少、好中球増加、生化学検査では低K血症、血糖値上昇、LDLコレステロール・中性脂肪上昇,HDLコレステロール の低下,凝固能亢進,免疫グロブリン低下を認めます。クッシング症候群では精神症状が半数以上に出現し、最初に精神科や心療内科を受診する例もあります。
精神症状は多彩であり,不安障害,人格障害,気分障害,統合失調症様障害,薬物依存,摂食障害といった症状として現れ、特に不安障害,焦燥感を伴う抑うつ状態,双極性障害を認めることがあり、気分障害には幻覚・妄想を伴うこともあります。クッシング症候群の特徴的な所見が出ていない場合はその診断は困難です。記銘力低下により認知症と診断されて治療開始されている例もあります。
副腎性クッシング症候群の診断
血中ACTH が抑制され、 血中コルチゾールは正常~高値を示します。24時間蓄尿では尿中遊離コルチゾールが正常上限~高値を示します。 外からコルチゾールを与え内因性コルチゾールが抑制されるか確認する試験を行います。以下の結果が陽性ならコルチゾールの自律性分泌があると考えられます。
デキサメサゾン1㎎抑制試験で血中コルチゾール値が5μg/dL以上。 デキサメサゾン8mg抑制試験で血中コルチゾール値が5μg/dL以上。 日内変動では深夜の血中コルチゾール値が5μg/dL以上。
CTで副腎腫瘍の存在を確認します。 CTで腫瘍径が5㎝未満、腫瘍内の平均単純CT値10HU以下で腺腫を疑います。腫瘍が5㎝以上で、辺縁が不整形で内部が不均一の場合に副腎皮質癌を疑いますが、腫瘍径が5cm未満でも腫瘍辺縁が不整形で内部が不均一かつCT値10以上の場合は副腎皮質癌が否定できません。
副腎皮質癌では副腎アンドロゲンDHEA-Sが上昇することあるので、測定します。両側の過形成の場合は両側副腎皮質大結節性過形成や原発性色素沈着結節性副腎皮質病のことがあります。
副腎性クッシング症候群の治療
治療をしない場合、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などの悪化のみならず、著しく免疫力が低下するため感染による敗血症で死に至る危険性があります。クッシング症候群における高コルチゾール血症は心血管障害のリスクを増大し、死亡率を増加させることから早期診断、早期治療が重要です。さらに慢性的な高コルチゾール血症は精神状態も悪化し、記銘力低下などホルモンが改善しても不可逆的な経過をたどることがあります。
副腎腺腫やがんが原因であれば手術療法として、副腎摘出術が第一選択です。術後はコルチゾールをしばらく補充します。手術不能例や、腫瘍残存における高コルチゾール血症にはステロイド合成阻害薬(ミトタン、メトピロンなど)を投与します。
過形成であれば、顕性Cushing症候群を呈していない両側副腎皮質大結節性過形成(PBMAH)に対する両側副腎摘除は勧めておらず、年齢、高コルチゾール血症の程度、合併症の有無などにより片側副腎摘除も選択肢であるとしています。高コルチゾール血症が軽度の場合は経過をみることがあります。またクッシング症候群の合併症に対する治療も重要です。
サブクリニカルクッシング症候群
副腎性サブクリニカルクッシング症候群 は副腎腫瘍があり自律性にコルチゾールが産生されていますが、満月様顔貌など典型な所見がみられない場合です。
診断基準は
- 副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
- 臨床症状:Cushing症候群の特徴的な身体徴候の欠如
- 検査所見
1)血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内
2)コルチゾール分泌の自律性:overnight 1 mgデキサメタゾン抑制試験
3)ACTH分泌の抑制:早朝の血中ACTH基礎値が10 pg/ml未満
4)日内リズムの消失:21-24時の血中コルチゾール5 μg/dl以上。
5)副腎シンチグラフィーでの健側の抑制と患側の集積
6)血中DHEA-S値の低値
7)副腎腫瘍摘出後、一過性の副腎不全症状があった場合、あるいは付着皮質組織 の萎縮を認めた場合
診断 1、2、および3-1)は必須で、さらに下記(1)(2)(3)の何れかの基準を満たす場合 を確定診断とする。
(1)3-2)の1 mgDST後の血中コルチゾール値が5 μg/dl以上の場合
(2)3-2)の1 mgDST後の血中コルチゾール値が3 μg/dl以上で、かつ3の3)-6)の1つ以上もしくは7)を認めた場合
(3)3-2)の1 mgDST後の血中コルチゾール値が1.8 μg/dl以上で、かつ3の3)4)を認めた場合、もしくは7)を認めた場合
サブクリニカルクッシング症候群では自律的なコルチゾールの産生により肥満、糖尿病、高血圧や骨密度の低下が見られ、心血管病の リスクが高くなっています。
顕性のクッシング症候群に移行する可能性は低いと考えられていますが、2-4年間は内分泌専門医によりフォローアップが必要と言われています。
外科的治療が必要かどうかは明確な指針はありませんが、欧州の副腎偶発腫のガイドラインではデキサメタゾン投与後のコルチゾールが5µg/dLを超え、少なくとも2つのコルチゾール過剰に関連する可能性のある合併症(2型糖尿病、高血圧、肥満、骨粗鬆症、脂質異常症)があり、そのうち少なくとも1つが内科的治療で不十分に制御されている患者には手術の適応があるとしています。また普段より生活習慣病の管理が心血管系疾患や骨粗鬆症に予防重要です。
アジソン病
副腎皮質機能低下症
副腎皮質より分泌されるホルモンが不足し、それによって様々な症状がみられている状態を副腎皮質機能低下症と呼びます。その中で、副腎そのものが原因で発症する原発性副腎皮質機能低下症と視床下部・下垂体の障害でACTHが低下する続発性副腎皮質機能低下症があります。
続発性には長期のステロイド薬投与による薬剤性による副腎皮質機能低下もあります。近年はがん治療で使用される免疫チェックポイント阻害剤による(免疫関連副作用; irAE)により原発性と続発性の副腎皮質機能低下がみられます。
アジソン病は、副腎に病変が原発する慢性副腎皮質機能低下症の病態で、結核・真菌・AIDSなどの感染症、肺がんやリンパ腫の転移、外傷、手術、薬等の副腎障害などがあり、特発性は自己免疫性副腎皮質炎による副腎皮質低下症ですが、副腎萎縮を認め抗副腎抗体陽性の事があります。他の自己免疫性内分泌異常を合併している場合は、多腺性自己免疫症候群である場合もあります。
アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するⅠ型(HAM症候群)、アジソン病に橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患を合併するⅡ型(Schmidt症候群)があります。
主な症状ですが、コルチゾール、アルドステロン、副腎アンドロゲンが不足することで、体重減少、低血圧、低血糖、全身の倦怠感、食欲不振、便秘、下痢,関節痛,眩暈,筋痙攣なども認めます。女性では、性毛(腋毛、恥毛)の脱落など認めます。種々の精神症状(記名力障害,抑う つ,無表情,無気力など)を呈することがあり、 精神疾患、慢性疲労症候群、神経性食思不振症 などと診断されることもあります。
採血では原発性ではコルチゾールおよびアルドステロ ン不足による異常を認め、低ナトリウム血症、高カリウム血 症、Na/K比≦30、BUN上昇、貧血、代謝性アシドー シス、肝機能障害、高カルシウム血症、白血球の異常(好中球減少、好酸球増多、相対的なリンパ球増多)、低血糖を認めます。続発性ではコルチゾール欠乏およびSIADH様の機序が低ナトリウム血症に関与し、アルドステロン欠乏がないため,高カリウム血症は認められません。
副腎皮質機能低下の診断
血中コルチゾールの早朝の基礎値が18μg/dl以上なら正常と判断します。
副腎皮質機能低下が完全型になると血中コルチゾールは低値(≦3μgdl)、 尿中遊離コルチゾール、尿中 17-OHCSは低値を示します。原発性では血中ACTHは高値となります。続発性副腎不全ではACTHが低値です。原発性では一般的にアルドステロン分泌も障害されるため,血中アルドステロンは低値~正常下限、レニンは上昇、DHEA-Sは低値を示します。続発性副腎不全ではレニン・アンジオテン シン・アルドステロン系は正常です。
不全型では,血中コルチゾールの基礎値は正常範囲内の値(4~18μg/dl)を示し,続発 性副腎機能低下症との鑑別が問題となります。原発性では血中ACTHは正常上限より高値、続発性では低値ないし正常範囲内の値を示します。
副腎皮質機能低下を疑わせる症状や所見(全身倦怠感,低血圧,体重減少,低血糖,低 Na 血症,好酸球増多等)の有無を確かめます。
からだがストレス状態にある場合、血中コルチゾール の基礎値が 15μg/dl以下なら機能低下、34μg/dl 以上なら機能は正常であると報告されています。
早朝コルチゾール基礎値が18μg/dL未満は副腎不全症の可能性があり、迅速ACTH刺激試験によりコルチゾール分泌予備能をみます。投与後 30 分と 60 分に血清コルチゾール濃度を測定します。投与後の血清コルチゾール濃度の頂値が 18μg/dL 以上,あるいは投与後 60 分値が投与前値より 5μg/dL 以上増加する場合を正常 と判定します。
迅速ACTH負荷検査で頂値コルチゾールが18μg/dl未満と副腎不全が疑われた場合はCRH負荷試験施行します。視床下部性を疑う場合はインスリン負荷試験を追加することもあります。画像検査として負荷検査で原発性が疑われた場合はCTやMRIを検査し、下垂体・視床下部性が疑われたら下垂体MRIを施行します。
*迅速 ACTH負荷試験
迅速 ACTH負荷試験時の血中コルチゾール頂値が
18μg/dlなら副腎不全は否定
<4μg/dlなら副腎不全の可能性が高い
≧4μg/dl かつ<18μg/dlなら副腎不全の可能性を否定できない。
*CRH負荷試験
血中コルチゾールの頂値が18μg/dl未満なら原発性または続発性副腎不全症を疑う
血中コルチゾールの頂値が18μg/dl以上なら下垂体性副腎不全症は否定し、原発性副腎不全症あるいは視床下部 性副腎不全症を疑う
(ACTH分泌不全でも生物活性の低いACTHが分泌されいる場合はかならずしも基礎値が低値にならない場合がある。一般に血中ACTH基礎値が正常範囲内でCRHにたいするACTHが30-60分を頂値として前値の2倍以上の増加を示した場合は正常下垂体機能と判定するが、基礎値ACTH10pg/ml未満の場合の反応の評価は慎重に行う)
血中ACTH 基礎値が正常~高値、CRH 負荷に対する過大反応:原発性副腎不全症
血中ACTH 基礎値が低値~正常、CRH 負荷に対する無~低反応:下垂体性副腎不全症
血中ACTH 基礎値が低値~正常、CRH 負荷に対する正常反応:正常副腎機能か視床下部性副腎不全を疑います。
副腎皮質機能低下の治療
不足している副腎皮質ホルモンの補充となります。主にヒドロコルチゾン15~20㎎/日で補充していきます。続発性でACTHが抑制されず色素沈着がある場合はデキサメタゾン0.5mgを投与する場合もあります。低Na血症、低血圧などが改善なく、鉱質コルチコイドが足りないと考えられる場合はフロリネフ0.05~1mgを併用します。
ステロイド補充維持療法中に、発熱・感染・抜歯・強めの運動などの身体的ストレスがかかる際にはストレス対応のため、コートリルを通常服用量の 1.5から3倍の量を服用します。
ステロイド剤服用の自己中断やストレス時の不十分なステロイド服用量では副腎クリーゼ(急性副腎不全症)と呼ばれる病態となり、著しい全身倦怠、吐き気、嘔吐、発熱、腹痛、低血圧等 の症状を認めること、さらに症状が重くなると、意識障害をきたし、ショックに至る場合がある事を認識してもらいます。ステロイドを増量しても症状が悪くなる場合は速やかに医療機関に受診します。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)
副腎クリーゼとは
急性副腎不全症(副腎クリーゼ)とは、急激なグルココルチコイドの絶対的または相対的な欠乏が生じ、放置 すると致命的な状況に陥る病態をさします。
契機は副腎不全患者に感染や外傷など種々のストレスがかかり、ステロイドの需要が増大した時や、長期のステロイド内服中の減量・中断、感染、胃腸炎、喘息や糖尿病併発、尿崩症併発などにみられます。悪心、嘔吐、腹痛、体重減少、筋・関節痛、倦怠感、発熱、血圧低下、意識障害などの症状を複数認めた際に本症の可能性を疑います。
副腎クリーゼは緊急性があるため、随時の採血を用いて副腎不全を判定する必要があるます。ストレス下の随時血中コルチゾール値が3~5μg/dl未満なら副腎不全を強く疑い、20μg/dl以上の場合は副腎不全を否定できるとされます。副腎クリーゼを疑えば、ACTH・コルチゾールを採取後、躊躇なく治療を開始します。
褐色細胞種
褐色細胞種とは
副腎髄質に発生する腫瘍で、カテコールアミンと呼ばれるホルモン(ノルアドレナリン・アドレナリン)を過剰に産生します。それによって、高血圧をはじめ、頻脈、頭痛、多汗蒼白、胸痛、便秘、体重減少のほか、血糖値上昇、不安などがみられます。家族性にみられることがあります。
症候性(高血圧あり)は約 65%,無症候性は約 35% で,副腎偶発腫瘍としても発見されます。 副腎外(パラガングリオーマ),両側性,悪性は各々約 10%,家族歴のあるものは約 5% です。遺伝子変異検出率は30~40%程度あり、両側性では遺伝子異常が背景にある症例がほとんどであるとされます。遺伝子型と診断法、予後、治療反応性には関連が認められることから、若年発症(35 歳未満)、多発性、両側性、悪性では家族歴や特徴的な徴候がなくても生殖細胞系列の遺伝子変異の関与が示唆されるため、術前に遺伝学的検査が望まれます。但し、今のところ自費となります。後述する髄様癌の併存があれば、RET遺伝子検査は保険適応となります。
変異遺伝子はSDHB、SDHD、RET、VHLなどがみられ、SDHB変異陽性患者での転移有病率が高値です。家族性にみられる多発性内分泌腫瘍症(MEN2)の甲状腺髄様癌や副甲状腺機能亢進症、 VHL 病の網膜・小脳血管芽腫、神経線維腫症 1 型の皮膚の カフェオレ斑などを合併していないかを家族歴とともにチェックします。
褐色細胞種の診断
- 随時尿中メタネフリン分画/Cr、24時間畜尿メタネフリン分画
- 腹部骨盤腔CTやMRI
- MIBGシンチ(1割にMIBG陰性の褐色細胞腫がみられる)
- 18F-FDG PET:MIBG陰性例、転移性例の転移巣検索などでの実施が推奨される
褐色細胞種の治療
褐色細胞腫と確定診断されたら、手術が標準治療となります。術前には十分なαblockerの投与を行いますが、ふらつきがでやすいので、循環血漿量改善を目的に塩分摂取、水分補給に努めてもらいます。それでも症状がある場合は点滴をしながら、αblockerを増量してゆきます。降圧が不十分であれば、Ca blockerなど他の降圧薬を使用することもあります。
動悸があればαblocker開始後にβblockerを使用することもあります。 両側褐色細胞腫の場合,両側副腎をすべて切除するのか,副腎皮質温存を図るのかに関しては、大規模なランダム化比較試験がないため、コンセンサスは得られていません。全摘を行えば生涯を通したステロイド補充が必要となり、部分切除を行えば、再発リスクが上昇するため、腫瘍の位置や個々の転移や再発リスク、遺伝子異常の結果等を考慮して決定することになります。
手術困難な転移性褐色細胞腫に対しCVD(シクロホスファミド、ビンクリスチン、ダカルバジン)治療と131I-MIBG療法を考慮します。
副腎偶発腫瘍
副腎偶発腫瘍とは
画像検査で偶然に指摘された副腎腫瘍で、CTなどの画像検査の4%、剖検ではや約7%に副腎腫瘍が認められており比較的頻度が高い疾患です。
日本で行われた3,672症例の副腎偶発腫についての報告(Ueshiba H. Toho J Med, 2021)では、全副腎偶発腫の51%が非機能性腺腫、サブクリニカルクッシング症候群3.6%を含むコルチゾール産生腺腫10.5%、褐色細胞腫が8.5%、アルドステロン産生腺腫が5.1%、過形成4.0%、転移性腫瘍3.8%、骨髄脂肪腫3.6%、嚢胞2.3%、神経節細胞腫1.6%、副腎皮質癌1.4%、アンドロゲン産生腺腫0.2%でした。
したがって、副腎偶発腫瘍は副腎偶発腫のほぼ50%が非機能性腺腫である一方で、まれに副腎皮質癌、髄質(褐色細胞腫)から生じた原発性の悪性腫瘍や転移性腫瘍である可能性があり十分な注意が必要です。
転移性腫瘍
原発巣として、肺、腎、胃、大腸、乳腺、悪性黒色腫が多く、両側性にみられることがあります。両側の副腎皮質破壊による副腎皮質機能低下症は,食欲不振・倦怠感・嘔気・低 Na 血症,高 K 血症などを呈することがあります。
副腎皮質癌
約30%は非機能性、残り70%が機能性と言われています。コルチゾールや男性ホルモン作用を有する中間産物が産生されることが多く,Cushing徴候や男性化徴候(多毛・ざ瘡)しばしば認めます。尿中17-KSや血中DHEA-S値の上昇を認めます。副腎皮質癌は良性の腫瘍と比べて腫瘍径が大きく、画像検査のところでその特徴を述べます。
褐色細胞腫
褐色細胞腫はこちらへ副腎偶発腫瘍の検査
まず腫瘍がホルモン産生能を持つか血液・尿検査を行います。クッシング症候群や原発性アルドステロン症や褐色細胞腫で検査された項目をとります。
血液検査
ACTH、コルチゾール、レニン、アルドステロン、DHEA-S、テストステロン、E2、ナトリウム、カリウムなど、1㎎デキサメサゾン抑制試験
尿検査
24時間畜尿 ナトリウム、カリウム、アルドステロン、コルチゾール、メタネフリン、ノルメタネフリンなど
画像検査
- 良性を示唆する所見として腫瘍の大きさ<4㎝、CT値<10HUで内部均一、造影CTにおけるWash -out 率≧40-60%(但し褐色細胞腫ではヨード造影剤の使用が原則禁忌)、MRI T2強調像で等信号、opposed-phaseにおける信号低下あり
- 悪性を示唆する所見として腫瘍の大きさ≧4㎝(転移性はまちまち)、境界不明瞭、内部は不均一、壊死、石灰化、出血像認められることあり、CT値>10HU、造影CTにおけるWash -out 率<40-60%(但し褐色細胞腫ではヨード造影剤の使用が原則禁忌)、内部の不均―な造影増強効果や周囲組織への浸潤傾向あり。MRI T2強調像で高信号、opposed-phaseにおける信号低下なし、18F-FDG-PTの異常集積あり (但し18F-FDG-PET で集積亢進を認める副腎皮質腺腫もある)
副腎偶発腫瘍フォローアップ
腫瘍が明らかにホルモン産生している場合や、悪性が疑われる場合は手術を検討します。
非機能の良性腫瘍とみられるフォローについては 米国の米国臨床内分泌学者協会ガイドライン(2009)では良性腫瘍と考えられる場合は3~6か月、12か月、24か月後の画像のフォローアップと5年間のホルモンのフォローアップを提唱しています。
欧州内分泌学会における副腎偶発腫ガイドライン(2016)では、画像検査で明らかな良性の特徴があり、副腎腫瘤が 4cm 未満の患者では、追跡調査のためにさらなる画像検査を行わないとされています。
また良性腫瘍と判定できず、明らかなホルモン過剰がない症例で副腎摘出術を受けないことを選択した場合は6~12 か月後に CT または MRI のフォローを行い、この期間中に病変が 20% 以上拡大した場合 (最大直径が少なくとも 5 mm 増加した場合)、手術の検討を勧めています。
サブクリニカルクッシングについての偶発副腎腫瘍については副腎性サブクリニカルクッシングの項をご覧ください。