副甲状腺疾患 parathyroid
副甲状腺疾患とは
副甲状腺は、甲状腺の裏側の上下左右にひとつずつ(計4個)存在する小さな臓器になります。副甲状腺からは副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されます。これによって、血液中に含まれるカルシウム(Ca)の濃度を上昇させるほか、腎臓内でビタミンDの活性化を促進させる働きもあります。
これが小腸など消化管でのカルシウム吸収を助けるなどしていきます。この副甲状腺で起きた病気のことを副甲状腺疾患と呼びます。種類としては、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌する副甲状腺機能亢進症や同ホルモンが作用不足を引き起こすことで発症する副甲状腺機能低下症があります。
副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能亢進症とは
原発性副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺に腺腫等が発生することで副甲状腺ホルモンの分泌が過剰となります。
症状は高カルシウム血症の症状がみられますが、血清Ca値が12 mg/dL以上になってくると、神経・筋障害による易疲労感、脱力などを、腎での尿濃縮力低下により多尿、口渇、脱水などを、消化管運動の低下により悪心、嘔吐、便秘などを、またガストリン分泌亢進により胃酸分泌亢進を起こし、消化性潰瘍や膵炎を合併することがあります。また骨密度減少、尿路結石もみられます。
高カルシウム血症を認める患者で、PTHの高値~正常高値認めたら、CaクリアランスとCrクリアランスの比(CCa/CCr)やCa排出率(FECa)や病歴を評価し、家族性低カルシウム尿性高カルシウム⾎症とリチウム誘発性 副甲状腺機能亢進症を除外します。(ビタミンD欠乏がない状況での測定が望ましいです。)
副甲状腺の腫瘍の局在検査のため、頸部エコー検査やMIBIシンチグラフィを行います。縦隔内腺腫を疑う場合や副甲状腺過形成を疑う場合、術後再発例などでは造影CTやMRIの有用性が報告されており、エコー検査やMIBIシンチグラフィで検出できなかった場合には行います。
局在診断にて複数の副甲状腺腫大が疑われた場合は、多発性内分泌腺腫瘍症(multiple endocrine neoplasia、MEN)の合併を考え、インスリノーマ、ガストリノーマ、褐色細胞腫、甲状腺髄様癌、下垂体腺腫などの評価のために、インスリン、ガストリン、カルシトニンやメタネフリン、下垂体ホルモンなどの評価を行う必要があります。
また骨密度検査や腎結石など腹部超音波検査を行います。 PTHが高値であっても、補正Ca値が正常低値である場合、本疾患は除外されます。 著明な高カルシウム血症を認める場合は副甲状腺癌が疑われます。副甲状腺癌の場合は、wholePTH/intactPTHの比が1以上となることがあると報告されています。
治療について
有症状の場合や無症候であってCaの異常高値を認める場合は、治療を行います。 治療の基本は手術による病的副甲状腺の摘除です。
無症候性原発性副甲状腺機能亢進症に対する手術適応は補正Ca値が正常上限より1 mg/dLを超える上昇や、いずれかの部位の骨密度 T score が -2.5SD以下、X線検査による脆弱性椎体骨折の存在、eGFRあるいはCCrが60 mL/分未満、腎石灰化、尿路結石、高Ca尿症(女性 250 mg/日以上、男性 300 mg/日以上)、50歳未満のいずれかが存在すれば手術適応となります。
高カルシウムクリーゼを認めるときは緊急で生理食塩水輸液、スープ利尿薬による尿Ca排出促進、静注ビスホスホネートやカルシトニンによる骨吸収の抑制を図ります。
手術治療が困難な症例における顕著な高Ca血症(Ca >11.0 mg/dL)や術後再発例に対してカルシウム感知受容体作動薬のシナカルセト(レグパラ)あるいはエボカルセト(オルケディア)による治療を行うこともあります。カルシウム感知受容体作動薬は骨粗鬆症にたいして効果が示されていなこことから、手術を行わなかった原発性副甲状腺機能亢進症の骨粗鬆症に対してはビスホスホネート製剤やデノスマブ等を投与します。また不活型のビタミンD欠乏があれば、市販のビタミンDを買っていただくこともあります。
無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症で手術を行わなかった場合は、1年に1回の血中Ca、Cr、PTH値の測定、1年から2年に1回のX線検査による椎体骨折の有無の確認と骨密度測定にて経過観察することが推奨されています。
続発性副甲状腺機能亢進症とは
続発性副甲状腺機能亢進症では、低カルシウム血症の状態となります。これによって、副甲状腺ホルモンの分泌が慢性的に亢進するようになります。ビタミンD欠乏症、慢性腎不全、PTH不応症、薬剤性:骨吸収抑制薬、抗けいれん薬などの副甲状腺以外の病気が原因です。
治療は血液中のリンとカルシウムをコントロールし、PTHの過剰分泌を抑制することで、二次性副甲状腺機能亢進症による合併症の悪化を防ぎます。内科的治療には、活性型ビタミンD3製剤とカルシウム受容体作動薬が用いられています。
副甲状腺が腫大し、血液中のリン、カルシウム濃度が管理目標値の範囲内にあっても、PTHの過剰分泌が持続します。こうした高度の二次性副甲状腺機能亢進症は、腫大した副甲状腺の摘出術の適応となります。腫大している副甲状腺が1腺のみで、穿刺可能な部位である場合に「副甲状腺薬物直接注入療法(PEIT)」が適応される場合があります。
副甲状腺機能低下症
副甲状腺機能低下症とは
副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が不足、あるいは(同ホルモンの)効きが悪くなることで、低カルシウム血症や高リン血症などを引き起こし、それによって様々な症状がみられている状態を副甲状腺機能低下症と言います。
同疾患は大きく3つのタイプ(特発性、続発性、偽性)に分けられます。特発性副甲状腺機能低下症は、主に自己免疫疾患によって副甲状腺が破壊される、あるいは先天的な副甲状腺の形成不全が原因で起きるとされています。続発性副甲状腺機能低下症は、甲状腺の手術で副甲状腺も一緒に摘出、あるいは放射線治療等によって、副甲状腺ホルモンの分泌が不足、あるいは作用不足を起こすようになります。
また偽性副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモンが正常に分泌されるものの、同ホルモンを認識する臓器の先天的な不応症によって、低カルシウム血症や高リン血症等の症状がみられているタイプです。
低Ca血症(Ca<8.5mg/dl)、正~高P血症(成人でP>3.5mg/dl)で、慢性腎不全(eGFR 30mL/分/1.73m2以上)がなければ副甲状腺機能低下症と診断します。
症状は低カルシウム血症による口周囲や手足などのしびれ、テタニー、全身けいれんなどが主な症状です。
intact PTH<30pg/mlであればPTH分泌低下によるもので、特発性、続発性、種々の先天性疾患が含まれます。 intact PTH>30pg/mlであればPTH反応性低下による偽性副甲状腺機能低下症と診断。
PTH分泌低下型の大部分は2次性で副甲状腺の摘出手術後や放射線照射、癌細胞の浸潤などが原因です。またPTH分泌低下型には、遺伝子異常、後天性自己免疫疾患、低マグネシウム血症が含まれます。明らかな原因を認めないものを特発性とします。
低マグネシウム血症ではPTHの分泌・作用の低下させるため、基準値を1㎎/dl以上下回るような重篤な低マグネシウム血症ではそれ自体が低カルシウム血症の原因となります。
副甲状腺機能低下症において大脳基底核の石灰化の病的意義は少ないですが、診断補助検査の1つとして頭部CT検査を施行することが推奨されてます(大脳基底核の石灰化を伴う副甲状腺機能低下症患者に錐体外路症状などの神経症状が認められたと報告があります)
治療は活性型ビタミンDの投与です。分泌低下型ではアルファカルシドール2μg/日、偽性では1μg/日から開始します。(カルシトリオールの場合は半量)
治療の目的は低カルシウム血症によるテタニーというしびれ症状を来さな、血中Ca濃度8~8.5mg/dl程度を目標とし、必ずしも正常化する必要はない。尿中Ca/Cr比を0.3未満に維持する腎結石、腎機能低下の予防に努めます。
尿中Ca/Crが0.3を大きく超えてしまうにもかかわらず、血中Ca濃度の維持が困難でテタニー発作が頻発する場合には、尿中Ca排泄を低下させるサイアザイド系利尿薬の併用を考慮します。原則Ca製剤の併用は腎障害のリスクを高めるため行いません。
偽性副甲状腺機能低下症I型にはAHOに伴う肥満が認められることから、糖尿病や脂質異常症などのスクリーニング検査が推奨されます。。アルファカルシドールの維持量はおおよそ、2μg程度でできるだけPTH正常範囲に近づけます。