糖尿病 diabetes
糖尿病とは
糖尿病とは、インスリンに作用不足による慢性的な高血糖状態を主な特徴とする代謝症候群のことを言います。
その発症メカニズムは、そもそも血液中に含まれるブドウ糖は、食物から摂取され、消化管で消化・吸収されるなどしてエネルギー源となります。これが細胞に取り込まれることで、脳や体のエネルギーとなるわけですが、その際に不可欠とされているのが、膵臓から分泌されるホルモンの一種であるインスリンです。
このインスリンが何らかの原因によって、分泌が不足する(インスリン分泌障害)、あるいは分泌量が十分でも効果を発揮しない(インスリン抵抗性亢進)といった状態になることで、ブドウ糖が細胞に取り込まれずに血液中であり余ってくると慢性的に血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)は上昇するようになります。この状態が糖尿病です。
糖尿病の診断には、血液検査を行います。判定をつけるにあたっては、血糖値とHbA1cの数値を調べます。具体的な診断基準については以下の通りです。
①血糖値の数値:①早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上、
②75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値が200mg/dL以上、
③随時血糖値が200mg/dL以上
④HbA1cの数値:6.5%以上
- ①~③のいずれかと④の両方に該当すると、糖尿病と診断されます。
- ①~④の中で1つだけ該当する場合は「糖尿病型」と判定され、再検査が必要です。
- 日を違えた検査で①~③のいずれかに該当すれば糖尿病と診断。HbA1cのみの反復検査で糖尿病と診断はできません。
- また①-③が糖尿病型で慢性的な高血糖所見である糖尿病性網膜症の確実な存在や糖尿病の典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少)の存在を認めれば糖尿病と診断されます。
インスリンの分泌が不足している、あるいは効きが悪いという状態になる原因は、4つに分類されます。その中でも、よく知られているのが1型糖尿病と2型糖尿病です。
1型糖尿病は、インスリンが作られる膵臓のβ細胞が、自己免疫反応等によって破壊され、インスリンがほとんど分泌されない状態になります。かつては小児や若者世代の患者様の割合が高いことから若年性糖尿病とも呼ばれていました。この場合では、インスリンが圧倒的に不足しているので、速やかに体内へインスリンを補充する必要があります。
一方の2型糖尿病については、日本人の全糖尿病患者様の9割以上を占めるとされるタイプです。遺伝的要因や不摂生な生活習慣などをきっかけとして、中高年世代や肥満体型の方が発症しやすいです。なおこの場合においては、膵臓は疲弊した状態にあるので、インスリン分泌低下や、インスリンの効きが悪い状態になっています。
上記以外の糖尿病としては、その他の特定の機序・疾患による糖尿病、妊娠糖尿病があります。前者の場合では、遺伝子異常や何らかの病気(膵臓疾患、内分泌疾患、肝臓疾患 等)、薬剤の影響(ステロイド薬の使用 等)、感染症(先天性風疹症候群 等)が引き金となって発症します。後者では、妊娠中の女性に起きるとされる高血糖状態です。妊娠すると胎盤と呼ばれる臓器が作られるのですが、その際にインスリンの効き目を抑えるホルモンが分泌されます。これが慢性的な高血糖状態を招くと言われています。
合併症に注意
主な症状ですが、発症初期から自覚症状は現れにくいとされ、病状がある程度まで進行していくと、頻尿・多尿、喉の異常な渇き、全身の倦怠感、体重減少などといった症状が現れるようになります。そこから更に放置が続けば、やがて血管障害が引き起こされます。とくに細小血管が集中している、網膜、腎臓、末梢神経は合併症が起きやすいことから、糖尿病三大合併症(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害)と呼ばれています。
最悪なケースでは、失明、透析が必要となる腎不全、足の壊死がみられることもあります。また太い血管では、動脈硬化を促進させやすくなるので、脳血管障害(脳梗塞 等)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)など重篤な合併症を発症するリスクも高くなります。
治療について
糖尿病の治療は、その原因によって治療内容が異なります。1型糖尿病では、体内で不足しているインスリンを注射によって注入していくインスリン療法になります。この場合、頻回注射法や持続皮下注射法が行われます。薬物療法としてはαグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬のうちイプラグリフロジンとダパグリフロジンが1型糖尿病にも投薬可能ですが、正常血糖ケトアシドーシスを引き起こす可能性もあり、注意して使用する必要があります。
また2型糖尿病の患者様は、少しはインスリンが分泌されている状態のため、まず生活習慣の見直しから始めていきます。食事療法や運動療法が行われます。
食事療法では、規則的に一日三食の食事をとる、食べ過ぎずに適正とされるエネルギー量を摂取するようにします。また食事内容に関しては、炭水化物、タンパク質、脂質のバランスが良いとされる摂取量をキープしていきます。食品の選択に関しては、日本糖尿病学会から出されている「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参考にすると良いでしょう。
また運動は、インスリンの働きを改善させることにつながります。内容としては、中強度ほどの有酸素運動で、早歩き、軽度なジョギング、水泳など全身を使う運動を1日30分以上(できれば毎日)行うのが良いとされています。ただし、糖尿病患者様の中には、運動が禁止もしくは制限が必要とされる方もいますので、運動するにあたってはまず医師に相談するようにしてください。
なお、上記の生活習慣の改善だけでは血糖のコントロールが難しい場合は、経口血糖降下薬による薬物療法を併行します。種類としては、インスリンの抵抗性を改善させる薬(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬等)、ブドウ糖を排出する薬(SGLT-2阻害薬)、インスリンの分泌を促進させる薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、速攻型インスリン分泌促進薬等)、小腸での糖吸収を遅らせることで食後の急激な血糖値の上昇を抑える効果があるとされるα‐グルコシダーゼ阻害薬、インスリン分泌促進抵抗性改善薬(イメグリミン塩酸薬)などの経口薬があります。
またGLP-1受容体作動薬の注射薬も使用可能です。2型糖尿病でもインスリンが枯渇している場合や、著明な高血糖による糖毒性を解除する必要がある場合はインスリン療法の適応となります。