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甲状腺疾患 thyroid

甲状腺疾患とは

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下に位置するホルモンを分泌する器官のことを言います。蝶が羽を広げたような形が特徴的で、縦は約5cm、横幅は約3cm、厚さは約1-2cm、重さは15~20gほどです。

甲状腺では、生体の正常な成長や発達、代謝にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。そのため子どもが成長していく過程においては欠かせないもので、中枢神経、視床下部・下垂体、心臓・循環系、脂肪細胞、脂質代謝、消化管、骨恪筋、骨などの標的臓器に作用します。

甲状腺ホルモンは、ヨードを元にして甲状腺でつくられ、これが足りなくなると代謝がうまくできなくなって、エネルギーを活用しづらくなっていきます。また逆に甲状腺ホルモンが多過ぎると代謝が高くなってしまい、心臓などが過剰に働くようになり、その影響で体に不具合が発生するようになります。 主な甲状腺疾患は、甲状腺ホルモンの分泌量が変化する病気(甲状腺中毒症、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症)と甲状腺結節(しこり)です。

甲状腺機能による分類

甲状腺中毒症・甲状腺機能亢進症

バセドウ病、無痛性甲状腺炎(中毒期)、亜急性甲状腺炎(中毒期)、機能性結節、妊娠甲状腺中毒症、薬剤性(アミオダロンなど)、TSH産生腫瘍など

甲状腺機能低下症

橋本病(慢性甲状腺炎)ヨウ素欠乏、破壊性甲状腺炎(機能低下期症)、薬剤性(リチウム、アミオダロンなど)、阻害型TSH受容体抗体による甲状腺機能低下、特発性粘液水腫(萎縮性甲状腺炎)、続発性甲状腺機能低下症(手術後、放射線治療後、アイソトープ治療後)、視床下部性・下垂体性甲状腺機濃低下など

主な症状について

甲状腺ホルモンが過剰になると、動悸、息切れ、イライラして落ち着きがない、暑がって汗を掻きやすい、食欲は旺盛だが痩せてくる、一方、甲状腺ホルモン不足していると、体温が低くて寒がるようになる、太りやすい、便秘、むくむ、抜け毛といった身体症状のほか、無気力、疲れやすい、抑鬱,記憶力低下などの症状を呈することもあります。また甲状腺機能は正常でも甲状腺が腫れているような気がするなど。

ただ、これらの症状というのは、とくに女性であれば多くの方々が日々感じていることでもあるので、他の病気と間違いやすく、発症に気づくまでに時間がかかります。そのため、自己判断することなく、当院にご相談ください。

このような症状はご相談ください(例)

甲状腺中毒症

疲れやすい、暑がり、発汗増加、食欲増加し体重減少、動悸、下痢、手指が震える、微熱、気持ちがイラつく、不眠、薄毛など

甲状腺機能低下症状

寒がり、抑うつ、無気力、だるい、体重増加、便秘、むくみ、体温低下、声がかすれている、汗が少ない、乾燥、髪が抜ける、髪のつやがなくなる、月経異常、物忘れ、抑うつ症状など

甲状腺腫大

首まわりが腫れている感じがする。甲状腺が腫れている感じがするなど。
また甲状腺が腫れてなくても、甲状腺あたりが痛い感じするなど。

バセドウ病

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰につくられる病気(甲状腺機能亢進症)の中でも代表的な甲状腺疾患です。自己免疫疾患でもあり、抗TSH受容体抗体(TRAb)が甲状腺膜上発現するTSH受容体を持続的に刺激して、甲状腺はびまん性に腫大し、甲状腺ホルモンを過剰に分泌させてしまうのです。その発症には遺伝的素因と環境因子(喫煙、女性ホルモン、妊娠、感染、ヨウ素など)が関与していると言われています。またアミオダロンやチロシンナーゼ阻害薬等の投与後にバセドウ病を発症することがあります。

バセドウ病の症状・症候

特徴的臨床所見であるMerseburgの3徴候(甲状腺腫・頻脈・眼球突出)からなりますが、甲状腺の腫大はみられないこともあります。その他疲れやすい、多汗・体重減少・動悸・下痢・手指の震え、月経異常、暑がり、精神不安などの中毒症状がでます。

バセドウ病で急激で激烈な甲状腺中毒症として発症するのが、甲状腺クリーゼです。致死率は10.7%と高いため、早期の治療が重要です。血中甲状腺ホルモン(FT3・FT4)がどちらか一方でも高値を示す必須項目に加えて、5つの症状 ①不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡などの中枢神経症状があり、②38℃以上の発熱、③毎分130回以上の頻脈、④重度の心不全、⑤消化器症状(嘔吐、下痢、黄疸 総ビリルビン3㎎/dL以上など)のうち、①中枢神経症状+他の症状項目②~⑤のうちの1つ以上が陽性の場合や、中枢神経症状がない場合は②~⑤の所見の中で3所見以上を伴う際に甲状腺クリーゼと診断されます。

クリーゼでは大抵何かの誘因を伴います。その誘因としては、抗甲状腺剤の服用不規則や中断、甲状腺手術、甲状腺アイソトープ治療、過度の甲状腺触診や細胞診、甲状腺ホルモン剤の大量服用などがあります。また、甲状腺に直接関連しない誘因として、感染症、甲状腺以外の臓器手術、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、ヨード造影剤投与、脳血管障害、肺血栓 塞栓症、虚血性心疾患、抜歯、強い情動ストレスや激しい運動などがあります。

バセドウ病眼症

バセドウ病の25~50%、橋本病の2%にみられます。甲状腺機能は正常の場合もあります。眼球突出、まぶたの腫れ、複視、結膜・角膜障害、視力の低下など重症例ではQOLが著しく損なわれます。全例禁煙を勧め、甲状腺機能の正常化を図ります。甲状腺機能低下症は避けます。重症例ではステロイドパルス療法を行います。

周期性四肢麻痺

アジア人の若い男性に多くみられます。飲酒・炭水化物大量摂取・運動などの誘因で甲状腺機能亢進に伴って低カリウム血症をきたし脱力発作を呈します。

バセドウ病の検査

血液検査 甲状腺ホルモンFT3、FT4上昇し、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が抑制されます。TRAb、TSAb(甲状腺刺激抗体)抗体が陽性になります。
甲状腺超音波 びまん性甲状腺腫大や甲状腺の血流亢進などがみられます。
甲状腺シンチ(123I/99mTcO4-)検査 放射性ヨウ素やテクネシウムの甲状腺摂取率を調べます。

バセドウ病の治療

  • 内服治療(抗甲状腺薬・ヨウ化カリウム)
  • 放射性ヨウ素内服療法
  • 手術(甲状腺全摘)
内服治療(抗甲状腺薬・ヨウ化カリウム)
抗甲状腺薬(メルカゾール®:MMI、チウラジール®:PTU)

副作用は多くは開始後3か月以内に発症します。

  1. 無顆粒球症 白血球の特に好中球が低下します。内服開始後2か月間は原則2週間毎に副作用の検査を行います。喉の痛みや発熱があれば血球の検査を行い、好中球数が 1000/mm3 未満に減少したら忠抗甲状腺薬を中止します。
  2. 痒み・発疹 軽症例では抗ヒスタミン薬を併用します。
  3. 肝機能障害 多くは一過性ですがが、PTUは劇症肝炎、PTUとMMIでは重症うっ滞型肝障害が稀(MMI0.1%、PTU0.05%)におこることがあります。甲状腺ホルモンの変動によっても肝機能は変動することがあるため、抗甲状腺薬による影響か、ホルモンの変動に由来するものかを見極めることが重要となります
  4. MPO―ANCA関連血管炎 主にPTU服用中に多くみられます。無症候性で血管炎を起こしていなくても、抗甲状腺薬服用中の方にはMPO―ANCA陽性例がみられます。抗甲状腺薬投与時には、血尿・蛋白尿などの腎障害、血痰・呼吸困難などの呼吸器症状、紫斑・皮疹などの皮膚症状、関節腫脹・関節痛,発熱などの症状に注意し、これら症状が出現時には血清MPO-ANCA測定と炎症反応や腎機能・検尿を確認します。多くは薬剤の中止によって予後は良好です。
  5. 催奇性 妊娠初期にMMIに曝露された胎児に頭皮欠損(妊娠15週まで)、臍帯ヘルニア、臍腸管異常などがみられますが、我が国では重大な奇形である後鼻腔閉鎖症や食道閉鎖はまれです。妊娠希望の方や妊娠する可能性の方はPTUであらかじめ治療します。
ヨウ素内服治療(ヨウ化カリウム)

過剰なヨウ素を服用することで、甲状腺機能の低下を図ります。抗甲状腺薬の副作用が出た時に代わりの薬として使用したり、バセドウ病の病勢が強い初期に抗甲状腺薬と共に使用することがあります。また軽症のバセドウ病に長期にコントロールできることがあります。長く内服していると効きが悪くなることがあります。

放射性ヨウ素内服療法
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療

アメリアではバセドウ病の患者の7-8割はアイソトープ治療を選択していますが、日本は大多数が抗甲状腺薬を治療の選択とする方が多いです。抗甲状腺薬が副作用で飲めない方や、長期に抗甲状腺薬をやめられない方はアイソトープ治療か外科的治療を検討します。

アイソトープ(放射性ヨウ素)治療はヨウ素の放射性同位体131Iを服用することで、甲状腺内にアイソトープを取り込み、甲状腺を破壊しホルモン産生を軽減させる治療ですアイソトープの服用から約1~2ヶ月で甲状腺は縮小し始め、約2〜6ヶ月で甲状腺ホルモンの分泌も次第に減少します。治療後4~6ヶ月間は甲状腺ホルモン値の大きな変動が起こる可能性がありますので、1ヶ月毎に来院していただき内服量の調整が必要となります。治療後約半年~1年程で安定した状態となり、抗甲状腺薬の中止を検討できます。

治療効果には個人差があり、1~2年経っても抗甲状腺薬が中止できない場合は、再度アイソトープ治療を行うことが可能です。治療後、甲状腺機能が正常になり、薬が不要になることもあれば、低下症となり甲状腺ホルモン薬(チラージンS®)の補充が必要になる方もいますが、落ち着いていればチラージン®の長期処方も可能となります。また挙児希望の方は男性では治療から半年間、女性では治療から1年間は避妊が必要となります。

アイソトープ治療後にバセドウ病眼症が悪化することがありますので、治療前に専門の眼科で検査を受けていただき、アイソトープ治療が可能かの評価をしてもらいます。治療後にも定期的に眼科検査を受けていただきます。治療の前後にヨウ素制限を行う必要があり、抗甲状腺薬や無機ヨウ素薬の中止も必要です。18歳以下の方には原則行っておりません。

手術(甲状腺全摘)
外科治療

バセドウ病の手術の適応①大きな甲状腺腫、②抗甲状腺治療でなかなか治らない、③甲状腺腫瘍の合併、④抗TSH受容体抗体価がたかく、早期の寛解を望む方、⑤高度の眼症を持つ方です。手術は亜全摘か全摘が選択されます。全摘は生涯、甲状腺ホルモンを飲む必要がありますが、再燃がなく、安定すれば長期の処方ができます。一方、合併症や手術創の発生という可能性が無いことはないという点がデメリットです。

妊娠時の管理 

抗甲状腺薬治療をうけている方 甲状腺機能亢進状態にあれば、早産・流産のリスクが高くなるので、コントロールが良い状態にしておくのが、重要です。またTRAbが高い場合、胎盤をとおして、胎児の甲状腺もTRAbで刺激されています。抗甲状腺薬は胎盤通過性があるので、胎児の甲状腺機能亢進症の治療にもなります。催奇形性を考慮し、妊娠第1三半期にはPTUあるいは無機ヨード、あるいは無治療を選択します。

可能であれば器官形成期が終了する10週以降(できれれば16週以降)、より副作用が少なく効果の確実なチアマゾールを使用することもあります。妊娠8週から13週にhCGによる一過性の甲状腺機能亢進症が加わり、機能亢進状態悪化することがあります。

妊娠20週までは非妊娠時と同様に正常を目標に、妊娠20週を過ぎると、胎児甲状腺機能を正常にすることを目標として、母体のFT4値を非妊娠時の基準範囲上限を目指してコントロールします。TSHを正常化する必要はありませ。

手術後やアイソトープ治療後に妊娠した場合、TRAbが高値でななく、機能正常なら問題ありません。TRAb>10 IIU/Lの時で、産科との密接な連携が必要です。胎児の心拍数、大きさ、骨成熟の観察、児の甲状腺内の血流を観察し、機能亢進状態になっている場合は抗甲状腺薬を使用する。新生児の一過性甲状腺機能亢進症が起凝る可能性があるが小児科と連携していく。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病とは

甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる甲状腺機能低下症の代表的な疾患が橋本病で、 軽症例は成人女性の30人に1人、病初期の潜在性自己免疫性甲状腺炎は10人に認められます。発症には、自己免疫疾患が関係しているとされ、複数の遺伝因子と環境因子の組合せで発症すると考えられています。甲状腺が自己免疫によって壊れてしまうことで甲状腺機能が低下していきますが、おおよそ90%の甲状腺が破壊されると機能低下に至ると推定されていますが、実際に甲状腺機能低下になるのは2割程度です。

甲状腺ホルモンの量が不足すると、新陳代謝が低下します。寒がりになり、皮膚が乾燥してカサカサ、むくみ、髪も抜け、無気力になって頭の働きが鈍くなる、忘れっぽくなることもあります。うつ病や認知症と間違われることもあります。便秘、月経過多、月経が長引くこともあります。血液検査では、コレステロールの上昇や肝機能障害、筋肉の酵素の上昇、血球の減少などいろいろな異常を認めることがあります。

診断は甲状腺の腫れと抗甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)が陽性であることを確認します。腫れがなくても甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは橋本病の可能性が高くなります。また甲状腺腫大を認めない阻害型受容体抗体TSBAbが陽性になる萎縮性甲状腺炎があります。

治療ですが、ヨードの過剰摂取があれば中止してもらいます。甲状腺の機能自体は正常で、甲状腺の腫れのみの場合は、経過観察になります。甲状腺機能の低下があれば、甲状腺ホルモン投与を行う場合があります。具体的には甲状腺刺激ホルモン(TSH)が10µU/ml以上や、高コレステロール血症を伴う場合などに、年齢、合併症や全身状態を考慮しながら甲状腺ホルモンの内服を検討します。

妊娠希望の橋本病の方はTSH≦2.5(妊娠中期からはTSH<3.0)を目安にチラーヂンS®、の内服を調整します。また甲状腺自己抗体が陰性で橋本病でなくても、不妊治療中や流産を繰り返している場合など、TSH≦2.5を目標に甲状腺ホルモンを投与することがあります。

多くの方は無症状で機能も正常のため治療の必要ありませんが、自己免疫性疾患は進行性で一部の方は甲状腺機能低下になることもありますので年に2-3回程度、定期的に血液検査をお勧めいたします。

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎とは

慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中などに発症しますが、甲状腺抗体が陰性でも発症がみられます。出産後、強いストレス、花粉症、薬剤(副腎皮質ステロイドの中止、GnRH誘導体、分子標的薬スニチニブ)など何らかの原因によって甲状腺組織が炎症によって破壊され、その中に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出し、一過性の甲状腺機中毒症を呈する破壊性甲状腺中毒症に含まれます。

通常中毒期は約2ヶ月間までにはおさまり、そのあとに続く甲状腺機能低下も10週間までには回復します。少数例は永続的低下をきたすことがあります。甲状腺中毒症状は軽度の場合が多いですが、抗TSH受容体抗体陽性例が稀にあり、長い中毒期がある場合バセドウ病と区別することが困難な場合もあります。甲状腺機能正常化後もしばらくは経過をみます。

主な症状は、甲状腺中毒症状(動悸、頻脈、多汗、手指の震え、体重減少 など)で、比較的短い期間に現れます。ただ、無痛性甲状腺炎の甲状腺機能亢進は一過性に過ぎないので、これといった治療をしなかったとしてもいずれは正常化(自然回復)していきます。

過労を避けるようにしながら、甲状腺ホルモンの量が低下するのを待ちます。動悸や手の震えなどの症状が強いのであれば、対症療法としてβ遮断薬を使います。一部は甲状腺機能低下が持続することがあり、程度に応じて甲状腺ホルモン補充を検討する場合もあります。

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎とは

甲状腺に炎症が起こる病気で、ウイルスによる感染が原因とされていますが、そのウイルス自体は特定されていません。炎症が引き金となって甲状腺組織が破壊され、それによって蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏出する破壊性甲状腺中毒症が起きるとされています。3〜6ヵ月程度の全経過をたどることから「亜急性」甲状腺炎と呼ばれています。

上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることもあります。甲状腺は硬く腫れ、押すと痛みが生じます。甲状腺の痛みはしばしば反対側にも移動します。経過は破壊性甲状腺中毒症期から機能低下症を経て通常甲状腺機能は正常化しますが、一部は永続的な機能低下をきたします。

診断は有痛性の甲状腺腫と採血で炎症反応の陽性を確認します。通常抗甲状腺抗体は通常陰性ですが、経過中に弱陽性になるがことがあります。甲状腺エコーで,疼痛部に一致した低エコー域が認められます。

治療は、主に対症療法的になります。熱と痛みに対しては消炎鎮痛剤を投与します。痛みがひどく重い場合は、副腎皮質ステロイドを投与します。動悸があれば、β遮断薬を用いることもあります。

急性化膿性甲状腺炎

急性化膿性甲状腺炎とは

細菌に感染することで、甲状腺もしくはその周囲に炎症が起きる状態を急性化膿性甲状腺炎と言います。この疾患は、子どもに多く見受けられますが、成人でも起きることはあります。この病気は生まれつき下咽頭梨状窩瘻(下咽頭から甲状腺にかけて通る細い管)のある方に発症するとされており、ここに細菌が入り込むことで感染すると言われています。 よくみられる症状は、上気道感染が先行し、のどの左側に腫れと痛み、発熱を認めます。また、飲み込む行為を行うと激しい痛みが出ることもあります。また炎症している部位の皮膚が赤くなることもあります。亜急性甲状腺炎と症状がよく似ているのも特徴です。

超音波では甲状腺内部から甲状腺周囲にわたり広範囲に境界不明瞭な低エコー領域を認め,甲状腺被膜が不明瞭となります。炎症の波及範囲を調べるには頚部CT検査を使用することもあります確定診断はバリウムをのんで下咽頭食道造影で瘻孔を確認します。大抵、甲状腺機能は正常ですが、破壊性甲状腺炎がおこると、甲状腺中毒症を一過性に起こします 治療は、主に抗菌薬を用います。また膿を抜くための小切開を行うこともあります。多くの場合、症状が落ち着いてきたら、再発を予防のため下咽頭梨状窩瘻を摘出する手術を行います。

甲状腺内に結節ができる疾患

甲状腺結節

甲状腺結節の組織学的分類
Ⅰ. 腫瘍性病変
  1. 良性腫瘍 濾胞腺腫  
  2. 悪性腫瘍 (乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫)
  3. その他の腫瘍・分類不能腫瘍
Ⅱ. 腫瘍様病変  
  1. 腺腫様結節、腺腫様甲状腺腫  
  2. アミロイド甲状腺腫
  3. 嚢胞
結節性病変の診断のすすめ方
  • 甲状腺超音波 
  • 穿刺吸引細胞診(結節が2㎝以上の場合や悪性が疑われる結節に対して行われる)
  • その他の検査法 CT、MRI、PET、シンチグラフィ、サイログロブリン、腫瘍マーカー等
  • 悪性腫瘍に対しての治療は外科治療、放射性ヨード内療法による放射線治療、化学療法があります。

甲状腺結節とは、甲状腺内に腫瘤ができる疾患のことです。腫瘍は主に良性と悪性に分類されますが、甲状腺良性腫瘍には濾胞腺腫、悪性腫瘍としては、甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん)、悪性リンパ腫があります。非腫瘍性病変では、腺腫様甲状腺腫、腺腫様結節や嚢胞などがあります。

甲状腺悪性腫瘍

90%以上乳頭癌が占め、発育緩徐で10年生存率は90%と良好です。濾胞癌は5%程度にみられ、10年生存率は85%、その他髄様癌・未分化癌は1~2%です。

甲状腺乳頭癌

濾胞上皮由来の腫瘍で、甲状腺原発の悪性腫瘍の殆どを占め、進行がゆっくりの癌です。遠隔転移は少なく、甲状腺周囲のリンパ節に転移することが多いでが、成長が遅いため、手術でなおることが多いです。大きさが1cm 以下の微小がんでは、リンパ節転移や遠隔転移がなく、甲状腺外に浸潤していない低リスク微小がんであれば、経過観察でフォローアップすることがあります。

結節がそれほど大きくなければ、自覚症状がありません。超音波検査などで甲状腺のしこりを指摘され病院に紹介受診される方が多いです。結節が大きくなると、のどの腫れ、のみ込みづらい、声のかすれなどの症状が現れることがあります。伊藤病院での乳頭がんの20年生存率は、90%を越えています。甲状腺外浸潤がある場合、転移リンパ節を認める場合、遠隔転移がある場合、低分化癌が疑われる場合で甲状腺全摘を施行した後は、積極的に放射性ヨウ素を使用して、甲状腺付着部に残る肉眼的に見えない甲状腺細胞や、残存乳頭がん細胞のアブレーション(破壊)が行われます。

甲状腺濾胞癌

リンパ節転移や甲状腺周囲組織への浸潤は少ないが、肺や骨などの遠隔転移が多いことが特徴です。遠隔転移で発見される症例以外は、最初の細胞診では、悪性と診断できず、ほとんどの濾胞癌は術後の病理検査で被膜浸潤、脈管浸潤を認めた場合に悪性と診断されます。したがって濾胞性腫瘍は初回手術として片葉切除が行われ、病理検査で濾胞癌と診断された場合、症例によっては甲状腺の全摘をおこない、放射性ヨウ素を用いたアブレーションの適応となります。

髄様癌

散発性(70%)と遺伝性(30%)の2つのタイプがあります。遺伝性は常染色体優性遺伝という遺伝形式により遺伝します。CEAやカルシトニンというマーカーが上がります。遺伝性は多発性内分泌腫瘍症(MEN2)で見られることがあり、両側性で、副腎褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症を伴うことがありますが、髄様癌よりその症状が遅れてでてくることもあります。

褐色細胞腫があることがわからずに大きな手術を受けた場合、過度の身体的ストレスにより高血圧発作がおこりやすくなり、非常に危険のため、副腎から交感神経のホルモンがでていないか、副腎に腫瘍はないか、採血・尿・CT・MIBGシンチ等の検査を行います。また髄様癌だけ遺伝する家族性髄様癌(FMTC)もあります。髄様癌と診断したら、遺伝子検査を行い、RET遺伝子の特定の変異がみられた場合はMEN 2型あるいはFMTCと確定し、甲状腺全摘を行います。

甲状腺を残した場合、将来再び甲状腺から癌が発生する可能性があるからです。散在性の場合は広がりに応じて、片葉から全摘までの範囲を選択します。遺伝子検査は治療選択に有益な情報が得られる可能性がありますが、御本人には十分に説明を行い、遺伝カウンセリングができる専門の施設で施行します。しかしながら御本人が望まない場合は検査いたしません。

甲状腺未分化がん

高齢者に多く、結節が急激に大きくなり、1年生存率は5~20%と最も予後不良です。乳頭癌、濾胞癌から未分化転化して発生することが多いです。

甲状腺悪性リンパ腫

90%に橋本病を背景に発生し、甲状腺悪性腫瘍の1~5%とまれで増大傾向を示す首の腫れで受診することがあります。超音波では内部低エコー、後方エコー増強、線状エコーなどの特徴がみられます。穿刺吸引細胞診で悪性リンパ腫が疑われたら、結節の生検が行われ、病理組織検査をします。病気の広がりを知るためにCT検査やガリウムシンチ、PET-CT、骨髄穿刺などが行われます。採血ではCRP、LDH、sIL2-Rなどを調べます。治療は悪性リンパ腫のタイプによりますが、分子標的治療薬と抗がん剤R-CHOP、放射線療法が主です。

甲状腺機能性結節

甲状腺にできた結節(結節性過形成や腫瘍性病変)が甲状腺ホルモンを自律的に分泌するプランマー病(自律性機能性甲状腺結節:AFTN)があります。結節が複数ある中毒性多結節性甲状腺腺腫は腺腫様甲状腺腫であることが多く、単結節の場合は濾胞腺腫や腺腫様結節であることが多いです。濾胞癌や乳頭癌の2~5%に自律性甲状腺ホルモン分泌を、切除されたAFTNの20~25%に癌の合併が認められることがあります。AFTNにバセドウ病が合併していればMarine-Lenhart症候群と呼ばれます。診断は超音波とシンチグラフィで行います。機能性結節では、手術による腫瘍の摘出術か放射性ヨード内療法を行います。軽症例では経過観察か、抗甲状腺薬を投与することもあります。

中枢性甲状腺機能亢進症・中枢性甲状腺低下症・甲状腺ホルモン不応症(SITSH)

こちらをご参照ください

視床下部・下垂体疾患